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蝋人形館の殺人 [ ジョン・ディクソン・カー ]のレビューは!?

40代 男性さん
話の発端からエンディングまで一気に読ませて退屈しませんでした。 カーにしては珍しく人物描写、情景描写が素晴らしいです。訳者の力量もあるかもしれませんが話の筋が掴みやすいし、とにかくテンポが素晴らしく良い。 犯人の特異な設定、動機含めて今でもちゃんと読める作品です。 カーの悪癖である竜頭蛇尾も強引さもバカバカしいドタバタもない代わりにカーのカーたる所以である密室も不可能犯罪もありません。よって「カー好き」ではなくバンコラン好きにオススメ。じわじわくる恐怖と異常性をお感じ下さい。 意外性を追求するあまり、時としてあざとい方法を使いがちなカーですが、この作品では読者にきちんと手がかかりを示し、フェアプレイに心がけてます。ゆえにある程度真相を突き止め易く、帯やあとがきで書かれてるほど犯人の意外性はありませんが、前述した描写の巧さとキャラ設定でサスベンス小説としてもハードボイルド小説としてもいいような不思議な味があります。 それに輪をかけるのがバンコランのドSっぷり。 自分をコケにした犯人を真綿で首を締めるようにネチネチ追い詰め、犯人の一番大事な物を崩壊に導くあたりとか、それこそ登場人物の台詞じゃないけど「ひどい、人間じゃない、悪魔」 つか、最後の犯行、防げたはずなのにわざと防がなかっただろ、あんた、とツッコミ入れたくなる。 でも、そんなバンコランが自分は大好き。最後の対決で犯人の覚悟を問う場面も、バンコランなりの正義と怒りと優しさ(かなり歪んでるけど)がゆえ。それを受け止めきれなかった犯人の弱さがまた哀れ。 ラスト数行は、とても余韻が深く、まるでロス・マクドナルドの小説を見るよう。 ちょっと異端ですが、バンコランシリーズはもちろん、カーの作品中でも有数の傑作だと思います。